塾講師の近道
報告書の全訳を『「がん」になってからの食事療法米国対がん協会の最新ガイド』(米国対がん協会著、坪野吉孝訳・解説、法研)として出版しているので、くわしくはそちらをご覧ください。
健康食品の誇大広告のカラクリ ところでこの報告書では、日本で広く出回っているいくつかの健康食品が、取り上げられていません。
そうした健康食品は、米国ではポピュラーではないか、効果を判定するためのきちんとした研究がされていないか、どちらかです。
「そうはいっても、がんに対する劇的な効果を謳った健康食品のことが、しょっちゅう新聞広告にでている。
あれも、きちんとした研究がないというのか」そう訪られる向きもあるでしょう。
じっさい新聞を開くと、「奇跡の生還」「がん消滅」「治癒率九六・七パーセント」などの人目を引く見出しで、がん治療効果を謳った健康食品の広告をみかけない日はありません。
こうした健康食品の広告は、じつは二種類あるのにお気づきでしょうか。
一つは、健康食品について書かれた単行本の広告です。
「治癒率九六・七パーセント」などの効果を謳っているのは、こちらのほうになります。
出版物の広告だから、たとえ表現が誇大でも、とくに規制があるわけではありません。
「言論の自由」に基づいて、広告主である出版社が望むような見出しをつけられるのです(二〇〇三年八月に健康増進法か改正されて誇大広告が禁じられ、厚生労働省が一部の広告を規制するようになりました)。
もう一つは、健康食品そのものを製造販売している業者の広告です。
こちらの広告をよくみると、「治癒率九六・七パーセント」はおろか、「がんに効く」ともなんとも、いっさい書かれていません。
せいぜい、「あきらめないでください」というような漠然とした表現や、「高度の品質管理」などが謳われているにすぎません。
二種類の広告に、これほど大きなギャップがあるのはなぜでしょうか。
その背景には、次のような事情があります。
病院で処方される通常の薬剤の場合、臨床試験を行って効果をたしかめたうえではじめて、病気に対する効能を謳い、医薬品として販売することが許可されます。
ところが「がんに効く」とされる多くの健康食品は、こうした評価のプロセスを経ずに販売されています。
そのため、特定の病気に対する効能を広告で表示することが、法律(薬事法)で禁止されているのです。
健康食品にそれほど大きな効果があるなら、臨床試験できちんとした評価を行ったうえで医薬品として販売し、広告にもがんに対する効能を堂々と謳えばいいはずです。
にもかかわらずじっさいには、そうした手順は踏まれていません。
それでも販売が許可されているのは、医薬品としてではなく、文字通りの「食品」として、病気への効能を謳わずに売っているためです。
そこで、健康食品の製造販売業者による、「規制を受けた、控えめな」広告を補うかたちで、単行本を出版した出版社が、「規制のない、劇的な」広告をだして、宣伝を行っているのです。
二種類の広告のうち、どちらが実態を表しているか、よく考える必要かおるでしょう。
患者の食生活指針、三つの留意点 話がそれましたが、「がんに罹った人が、再発や二次がんを予防し、生活の質を高めるための食生活」を考える際のポイントを、さらに三つほど紹介しましょう。
第一に、この問題は、国際的にも本格的な研究が始められたばかりです。
意外に思われるかもしれませんが、実証的なデータはまだ少ないのが現状です。
そのため米国対がん協会の報告書でも、多くの項目が、「利益やリスクについて結論するだけの、十分な知見がない」というB判定になっています。
同協会では、これからの研究の発展に伴い、こうした判定を定期的に更新するよう計画しています。
残念ながら日本では、この分野の研究は、ほとんど手つかずに近い状態です。
そのため、日本のがん患者が、科学的根拠に基づいて食生活のことを考える際には、欧米での研究成果を(日本人にもあてはまるかどうかを吟味したうえで)参考にする状況が、とうぶん続くでしょう。
第二に、がんに対する食べ物の効果は、「あり」「なし」の二分法で、白黒をはっきりさせられるものではありません。
どれほど慎重に計画された、大規模な研究であっても、かならずなんらかの欠点や限界があります。
そのため、効果の有無を、議論の余地のない確実さでと代替療法結論づけることはできないのが普通です。
「白」でもなく、「黒」でもない、いわばすべてが「灰色」の、不確実性を含んだ状態にあるのが、食べ物とがんをめぐる研究の通常の姿なのです(食べ物とがんに限らず、すべての医学研究の姿といってよいでしょう)。
そこで、同じ灰色のなかでも、「より白に近い灰色」と、「より黒に近い灰色」とを区別することが、とても大切になります。
そのため米国対がん協会の報告書(図表9‐1、一八六ページ)でも、効果が「ある」「ない」という二分法ではなく、AからEまで七段階のグレードをつけて判定をしているのです。
第三に、がんに対する食べ物の効果を考えるときには、その大きさがどの程度のものか、およその見当をつけておくことが必要になります。
「がん患者」ではなく、「健康な人」のがん予防と食生活の研究では、がんの原因全体に占める食生活の役割は、およそ三割と推計されています。
個別の食べ物や栄養素についての研究でも、食べる量が少ないグループと比べて、多く食べるグループでは、がんの発生率が二割から三割程度低くなるという結果になることが多いのです。
いま問題にしている、「がんに罹った人の、再発や二次がんを予防する食生活」の分野は、「健康な人のがん予防と食生活」の分野よりも研究が遅れているため、はっきりしたことはまだ分かりません。
とはいえ、ある食べ物や栄養素にがんの再発や二次がんを予防する効果がかりにあるとして、その効果の大きさは、リスクを最大で三割程度下げるくらいのものと想定することは、理にかなっているでしょう。
少なくとも、ある食べ物をたくさん食べていればけっして再発しないとか、ある食べ物を少しでも食べればかならず再発するということはありません。
だからたとえば、「治癒率九六・七パーセント」というたぐいの謳い文句を真に受けることには、慎重になったほうがいいのです。
その反対に、「脂肪を減らす」ような場合でも、脂肪を含んだ肉類をI切口にしないところまで、極端になる必要はありません。
肉類をときどき食べたからといって、心配はいらないでしょう。
「奇跡的な治癒」はあるか? さて、ここまで読まれて、こう思われる方があるかもしれません。
「がんの再発と食生活をめぐる研究の状況は、なるほどよく分かった。
けれども、いまの医学では説明できない奇跡的な治癒というものも、あるのではないか。
健康食品や代替療法に、そうした奇跡をもたらす可能性が少しでもあるなら、試みる価値があるはずだ」 そこで、この問題について考えてみましょう。
これは研究者としての立場を離れた個人的な意見ですが、今日の医学では説明できないかたちで、がんが治ることも、私はあり得ると思っています。
がんとは異なりますが、自分自身、次のような経験があります。
じつは、数年前まで、精神的な行き詰まりのせいで、アルコールに頼る生活を送っていました。
回数や量を減らしたり、飲酒そのものをやめたりするよう何度も試みましたが、うまくいきませんでした。
それが、ある日を境に、飲みたいという気持ちが、急に消え失せてしまいました。
嘘のような出来事だったため、最初は自分でもなにが起こったのか、よく分かりませんでした。
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